神様のパズル

神様のパズルという本を読み終わる。
「宇宙を作る。」
それが、この物語の主題である。
「宇宙なんて、作れるのか?」
作中に出てくる、ほとんどの人物が、この疑問を掲げる。
もちろん、読んでいる私も掲げる。
随分と難しい、本を手にとってしまったとさえ思った。
しかし、しかしだ。
この本のは、こう始まる。

「宇宙は"無"から生まれた」と、彼は言った。「すると人間にも作れるんですか?"無"ならそこら中にある――」

なんだかわからないけど、確かにそうだ。作れるんじゃないのか?
そう思った。
思ってしまった。
読まないわけには行かないじゃないか。
この冒頭は天才的である。
と、思わざるをえない。文学のことに関しては、よくわからないから、本当に天才的な冒頭なのかは、わからない。
何故、天才的だと思ったなんて、説明すら出来ない。
でも、たぶん、天才的なんだなと思う。


悩める青少年に朗報!読書感想文は1行読めば書ける!
http://www.ne.jp/asahi/ymgs/hon/index03_kansou.htm
を唐突に思い出す。
この本なら、想像を膨らますのなんて、容易い事ではないだろうか。
本当に、1行読めば感想文が書けそうだ。
(上のサイトの思惑とは少し外れるかもしれない)


「宇宙が"無"から生まれた」なんていっているのは、物理学者だ。
だから、この本には宇宙を作るために、沢山の物理用語が出てくる訳だ。
私は、プログラマーといっても、商業高校出の、物理なんてこの1年で少しやったくらいで、初心者なのだ。
はっきりいって、チンプンカンプンである。
でも、あまり頭の良くない主人公ということもあり、周りの登場人物が、噛み砕いて説明してくれる。
日記スタイルということもあって、主人公も分からないところは、省略してしまう。
だから、チンプンカンプンな私にも、ストーリーは掴めるのだ。
物理専門にしてる人だったら、もっと楽しんで読めるんじゃないかな?


まぁ、専門知識だけじゃなくて、やはりそこは小説ということもあり、人間というものが描かれる。
そこで、私は恋をした。
ヒロインの天才少女に、恋をした。
天才故の悩みが、そこら中に散りばめられて、それが、いとおしくて、包んであげたい、解放してあげたいと、思ったのだ。
恋をしてしまったからには、感情移入も早かった。
彼女を取り巻く環境に、歯を食いしばって、ムカついてみたり。
彼女の行動に微笑んでみたり、怒ってみたりした。


終盤に差し掛かろうというところで、彼女の盗撮ビデオがネットで販売される。というシーンがあった。
心が詰まってしまった。キューンと締め付けられる。
考えるのも嫌になる。
どうしようもない、感情のやり場に吐き気が伴う。
思い返すだけで、吐き気がする。
存在しえない、人物に殺気じみたものを覚えてしまった。
そこで、確信してしまった。
恋しているのだと。


なんだか予想外の展開になった。
本の登場人物に、私が恋をするなんて、ちょっとパニックになる。
あ、でもこれって恋なのかな。
恋って、なんだろう。
わかんないや。
同情という言葉もあるし、そう同情かもしれないじゃないか。
何を馬鹿な。
本の登場人物だぞ。
実体なんて無いんだ。
恋するほうがおかしい。
そう、私はおかしい。
きっと、おかしいんだ。


そうやって否定しないと、彼女を忘れられないじゃないか。
否、・・・。


いや、いいじゃないか、本の登場人物に恋したって。
これからも、沢山の登場人物に恋するだろうし、今までだってあったはずなんだから。




(1)異性に強く惹(ひ)かれ、会いたい、ひとりじめにしたい、一緒になりたいと思う気持ち。
「―に落ちる」
(2)古くは、異性に限らず、植物・土地・古都・季節・過去の時など、目の前にない対象を慕う心にいう。

辞書を引くと、こんな風に出てくる。
一生かなえられない恋ということになるね。
だって、登場人物は登場人物であって、この世には存在しないのだから。
でも、そうやって割り切れるからこそ、本とかに出てくる登場人物には、恋を惜しげもなく出来るんじゃないかな。


とにかく、宇宙は本当に出来るのか?気になった方は読んでみたらいかがだろうか。
そして、私が恋した彼女に逢ってみて欲しい。